素材先行法と交互継ぎ足し法
概要
ここでは、韻の創作技法を“素材先行型”と“交互継ぎ足し型”の二つに分類し、それぞれの進め方を紹介する。
素材先行法
片方のフレーズを起点として、それに合うフレーズを発見あるいは生成する方法を“素材先行法”という。
前者のフレーズを“素材フレーズ”または“素材”と呼ぶ。
素材フレーズには、原則として手を加えない。
素材先行法の例
| 素材フレーズ | 生成フレーズ |
|---|---|
| 産み落とした | 風味・音・舌 |
| オードトワレ | 黄土と荒れ |
| 伝統芸能 | 出ん峠への |
| 懸垂下降 | センスいいカッコ |
このとき、素材フレーズを上回る良質な生成フレーズが見つかるケースは少ない。
| 素材フレーズ | 生成フレーズ |
|---|---|
| The Third Man | 目指す三度目 |
素材フレーズの縁語など、うまく馴染むフレーズが発見できれば、生成フレーズの不自然さは和らぐ。
が、やはり素材フレーズに比べれば劣ったものとなる。
多くの場合、後から考え付いたものは質が低く、“素材フレーズ>生成フレーズ”の関係にある。
産み落とした
>風味・音・舌
オードトワレ
>黄土と荒れ
伝統芸能
>出ん峠への
懸垂下降
>センスいいカッコ
The Third Man
>目指す三度目
素材先行法(両面素材ライム)
上に述べた通り、素材ありきで書く以上、通常は“素材フレーズ>生成フレーズ”となる。
つまり、2フレーズで構成する韻はフレーズ間に優劣を感じさせやすい。
しかし、どちらが素材フレーズといわれても通用するケースが存在する。
このような韻は、素材フレーズと素材フレーズのペアになっていることから、“両面素材ライム”と呼ぶ。
素材を破壊せずに対となるフレーズを発見しており、分類上は素材先行法による韻の一種といえる。
発見は偶然に大きく左右される。
例
| 素材フレーズ | 発見フレーズ |
|---|---|
| マウンテンロッジ | 満天の星 |
両面素材ライムでは2フレーズが同等の素材感を備えており、“素材フレーズ≓発見フレーズ”の関係にある。
マウンテンロッジ
≓満天の星
余談
素材先行法のうち片面素材と両面素材の見分け方はシンプル。
“どちらのフレーズを出発点として考えたか?”が容易に判別できるなら、通常の(=片面素材の)素材先行法である。
どちらとも決めかねるものは、優劣がないので両面素材の素材先行法である。
(しかし、この見分け方にも例外があるので後述する)
交互継ぎ足し法
何らかの素材フレーズからサーチを開始するが、素材改変しつつ進める方法を“交互継ぎ足し法”という。
素材先行法が素材に手を加えず、片側のフレーズだけを変更していくのと対照的である。
交互継ぎ足し法では生成フレーズの修正に応じて素材フレーズを修正し、また素材フレーズの修正に応じて生成フレーズを修正する。
“こちらの枝を切りすぎたら反対側の枝も切る”というイメージで、双方のバランスを見ながら交互に整える。
交互継ぎ足し法によって生成された韻に“素材フレーズ”は残らない。
基本的に、どちらが素材フレーズであったのかは判別不可能となる。(ある程度の推測は可能)
例
月曜スタートの週毎日勤務
買って腹ごしらえ シュウマイにチキン
SIX「お待たせバースデイ」
| 生成フレーズ1 | 生成フレーズ2 |
|---|---|
| 週毎日勤務 | シュウマイにチキン |
この韻の創作過程を細かく追っていけば、以下のようになる。
まず起点として週毎日
を素材にし、韻を発掘する。
このとき、シュウマイ
という候補が発見できたとしよう。
| 生成フレーズ1 | 生成フレーズ2 |
|---|---|
| 週毎日 | シュウマイ |
この時点では週毎日
の末尾にあるにち
の部分が余っている。
これを満たすようにフレーズ2の側を継ぎ足していく。
| 生成フレーズ1 | 生成フレーズ2 |
|---|---|
| 週毎日 | シュウマイ(にち) |
| 生成フレーズ1 | 生成フレーズ2 |
|---|---|
| 週毎日 | シュウマイにチキン |
すると今度はシュウマイにチキン
の末尾にあるキン
の部分が余ってしまう。
これを満たすようにフレーズ1の側を継ぎ足していく。
| 生成フレーズ1 | 生成フレーズ2 |
|---|---|
| 週毎日(きん) | シュウマイにチキン |
| 生成フレーズ1 | 生成フレーズ2 |
|---|---|
| 週毎日勤務 | シュウマイにチキン |
交互継ぎ足し型のライミングはこのようにして進められる。
ここからさらに長くシュウマイにチキン(む)
のように継続してもよい。
両側のフレーズが好きな長さになるまで同様に行う。
なお、この例でいえばシュウマイ(にち)
の時点で「シュウマイにチーズ」や「シュウマイにチクワ」など、色々な選択肢を挙げやすい。
その場で最もよさそうなものを選択することになる。
だが、後になって行き止まりにぶつかってしまったときはシュウマイ(にち)
まで戻って選び直すことになるだろう。
例2
ブーム超すと下火以下らしいけど韻にコストしたBからC&Sだ
ガラクタの思想 好きなモン書くのが楽、楽しそう!
Joker「Wild Card」(SIX)
| 生成フレーズ1 | 生成フレーズ2 |
|---|---|
| ガラクタ | が楽(た) |
| 生成フレーズ1 | 生成フレーズ2 |
|---|---|
| ガラクタ | が楽、楽しい |
| 生成フレーズ1 | 生成フレーズ2 |
|---|---|
| ガラクタ(のしい) | が楽、楽しい |
| 生成フレーズ1 | 生成フレーズ2 |
|---|---|
| ガラクタの思想 | が楽、楽し(そう) |
| 生成フレーズ1 | 生成フレーズ2 |
|---|---|
| ガラクタの思想 | が楽、楽しそう |
この例では、まずフレーズ2をが楽、楽しい
にして進めた。
その結果、フレーズ1が「ガラクタの詩」「ガラクタの恣意」のような低品質なフレーズしか見つからなかった。
そこで、少し戻ってフレーズ2をが楽、楽しそう
に訂正している。
継ぎ足し作業は、両側フレーズの推敲を交互に行うことで偏りを減らし、どちらも同じくらい自然な表現に揃える効果がある。
したがって、交互継ぎ足し法で作られたフレーズの質は“生成フレーズ1≓生成フレーズ2”の関係にあり、(フレーズ間の完成度の近さという点では)両面素材ライムに似ている。
週毎日勤務
≓シュウマイにチキン
ガラクタの思想
≓が楽、楽しそう
両面素材と交互継ぎ足し法の見分け方
完成したフレーズの単語感、出来合い感に注目する。
マウンテンロッジ
と満天の星
は、どちらのフレーズも出発点としてありえそうだ。
しかし、週毎日勤務
とシュウマイにチキン
の場合、どちらもやや違和感(人工的な、作られた感じ)があり、このフレーズで発掘開始したとは考えづらい。
このように単語感や素材感がないフレーズは、“継ぎ足しながら作られたもの”(生成フレーズ)であることが多い。
とはいえ、両面素材か交互継ぎ足し法かという違いは、読み手にとって関係のないことである。
重要なのは、“フレーズ1>フレーズ2”という質の劣化を感じさせず、“フレーズ1≓フレーズ2”を満たすペアの存在。
これを達成する手段が、純粋な閃きによるものか、地道な推敲作業によるものか、というだけの違いである。(全社が両面素材、後者が交互継ぎ足し法)
(文/SIX)
from 韻韻
シュウマイにチキン…八宝菜に巻く小籠包…
変更履歴
2016.11.25
- 新規作成
2017.4.21
- 全体的に見直し
2018.8.28
- 公開用に清書
2018.9.12
- ライムブログにて公開
2018.9.13
- 細かい表現の修正
2023.11.29
- 押韻島地下城への再録にあたり改稿