ナチュラルライムとシンクロライム
概要
前回の記事、音の一致率と90パーセントの法則では“音響上の繋がり”にフォーカスした。
今回は“意味上の繋がり”という観点から韻を考察する。
これは「優れた韻の条件」の5要素でいえば“明瞭性”に該当する。
以下、“ナチュラルライム”“シンクロライム”という用語を定義して、それらの特徴を解説する。
ナチュラルライム
韻を含む文章が違和感のない自然なものになっているとき、その韻を“ナチュラルライム”と定義する。
これは、意味を犠牲にして音響だけ強引に合わせた韻(破綻ライム)と対極に位置する。
ナチュラルライムは内容面の強度があるため、ワンペア(2フレーズ構成)でも十分なインパクトを備える。
もちろん、3フレーズ以上を自然な文章で連打できれば、いっそう力強くなる。
ナチュラルライムの作り方
自然な文章を成立させるために3つのアプローチがある。
1つ目に、韻を踏む部分(以下“ライムフレーズ”)同士が関連性を持っているもの。
詳細は“シンクロライム”として後述する。
2つ目に、ライムフレーズ同士の関連性は薄いものの、それ以外の部分(以下“繋ぎ”)によってうまく接続しているもの。
同じライムフレーズを使っても、繋ぎの技術(“馴染ませ”などの編集力)次第で“破綻ライム”“ナチュラルライム”のどちらにもなりうる。
3つ目に、追加の韻で接続しているもの。
先ほど、“それ以外の部分”は“繋ぎ”であると述べたが、例外もある。
たとえば“それ以外の部分”自身がライムフレーズも担っているとき。
第1句と第3句がスプリットライム(大きく内容の乖離した韻)というケースを考える。
ライムフレーズ間を埋めるように配置された第2句が“同じ韻を踏みつつ前後フレーズを馴染ませる”という役割を果たしていれば、“繋ぎであり韻でもある=ブリッジライム”といえる。
なお上記では、同じライムグループの第1句と第3句に挟まれる例で説明したが、第1句と第2句の間に“異なるライムグループのフレーズ”が挟まるブリッジライムもある。
ナチュラルライムの作り方(まとめ)
まとめると、ナチュラルライムの要件である“自然な文章”を達成するためには、以下3通りのアプローチが考えられる。
- 関連性の大きいライムフレーズ同士を組み合わせる(シンクロライム)
- 関連性の小さいライムフレーズ同士を“韻以外の繋ぎ部分”で馴染ませる
- 関連性の小さいライムフレーズ同士を“追加の韻”で馴染ませる(ブリッジライム)
ナチュラルライムの実例(1)
雄大な青空はイーゼルにカンバス
白煙でサインしていく ディーゼル機関車
SIX
韻以外の繋ぎ部分で馴染ませたケース。
イーゼルにカンバス
ディーゼル機関車
は関連性のないスプリットライム。
青空に白煙がたなびく様子を描線になぞらえることで、“フレーズ間の関連性”を高めている。
このように比喩法を用いて共通点を示すのは、スプリットライムを馴染ませる代表的な手法の一つだ。
参考
ナチュラルライムの実例(2)
言葉の海サーチ オオサンショウウオ
肺呼吸する 互換モード
SIX
同じく、韻以外の繋ぎ部分で馴染ませたケース。
オオサンショウウオ
の“両生類”という属性を互換モード
になぞらえて、フレーズ間の関連性を高めている。
参考
ナチュラルライムの実例(3)
何をほざいてんだ フォロワー三桁の物書き風情が
と小首を傾げた 愚かしい現代のホモサピエンスじゃ
面舵切れない領域で獲物たち狙う
SIX
ブリッジライムの例。
韻の連打をしながら文脈を整えている。
韻以外の純粋な“繋ぎ”にあたる部分は少ない。
参考
シンクロライム
1組のライムフレーズが音響だけでなく意味上の関連性を持つとき、その韻を“シンクロライム”と定義する。
シンクロライムと対極にある韻は、内容の大きく乖離した“スプリットライム”である。
“関連性を持つ”とは、具体的には“同じ意味の言葉”“逆の意味の言葉”“同じ分野の言葉”といったもの。
同義語ライム、対義語ライム、類義語ライム、縁語ライムなどがシンクロライムのわかりやすい例といえる。
母音合わせをした同義語シンクロライムの例としては、「金」と「マネー」、「部活」と「クラブ」、「鉛筆」と「ペンシル」、「計画表」と「レイアウト」などが挙げられる。
シンクロライムは、繋ぎ部分に頼ることなく、ライムフレーズのみで自然な文章が約束された韻といえる。
わざと内容を崩すような繋ぎ方をしない限り、きれいに意味の通った文章ができあがる。
そのため、基本的にナチュラルライムの要件も満たすと考えてよい。
その構造から“素材型シンクロライム”と“継ぎ足し型シンクロライム”の二つに分類できる。
素材型シンクロライム
対となるフレーズが、共に“素材”またはそれに準ずる言葉で構成されているもの。
発掘力に大きく依存する韻であり、希少価値が高い。
韻が素材フレーズの一部分だけに成立する場合(単語途中ライムの場合)は、“偶然の美しさ”が損なわれるため、シンクロライムとしては減点対象となる。
基本的に素材型シンクロライムは、ライムフレーズが単語区切りで独立したものと考えてよい。
継ぎ足し型シンクロライム
素材型とは異なり、フレーズがひとまとまりの言葉として通用しないもの。
発見の偶然性がないため、その点ではシンクロライムの中でも低評価といえる。
しかし、“編集力”によって人為的に作られた“同義語”や“対義語”は、また違う形で読者を感動させる力を持っている。
シンクロライムの実例(1)
ミシェル・タナーもG.K.MARYANもDjsamuraiも木瀬東も肯定する人間賛歌
ビーフもきれいさっぱり平らげるリレーアンカー
SIX
人名を列挙した類義語シンクロライム。素材型。
ただし、関連性のない人物を並べ、それらを馴染ませられなかった場合は“失敗したスプリットライム”となるだろう。
上記の例は、どんな人名を挙げても成立するような文脈になっているため、シンクロライムとして扱っている。
参考
シンクロライムの実例(2)
航海の絵筆はクリームソーダ色から
告解に深く染まるクリムゾンタイド
SIX
海の色を並べた、継ぎ足し型の対義語シンクロライム。
(「クリームソーダ」でなく「クリームソーダ色」という表現を使っており、素材フレーズとは言い難いため、継ぎ足し型とした)
参考
シンクロライムの実例(3)
“WHAT DO YOU MEAN ?”とか言われる時にはこっちが聞きたい「は? どういう意味?」
SIX
英語と日本語を並べた継ぎ足し型の同義語シンクロライム。
参考
補足:フレーズの配置順序に関する制約
シンクロライム(特に素材型)は繋ぎ方を問わないことに加え、フレーズが登場する順序を問わない。
ライムフレーズ同士が内容面の強い結び付きを有するので、どう配置してもまず自然な文章が成立する。
2フレーズで踏んだ場合、どちらを第1句に持ってきてもよい。
3フレーズ以上の連打を行った場合、どの順序で並べてもよい。
一方、ナチュラルライム(および、一部の継ぎ足し型シンクロライム)は配置順序が入れ替えられないケースが多い。
特に極端なスプリットライムを接続する際は、たった一つしか解決策(繋げ方)が見つからないということもある。
発掘力に依存するシンクロライムと比べ、継ぎ足し型シンクロやナチュラルライムは、“編集力の見せ所”という見方もできるだろう。
補足:素材型シンクロライムの探し方
素材型シンクロライムの発見には、偶然任せの要素が大きい。
が、一つのヒントとして“他言語に訳したとき同じ意味になる言葉”という観点で探すことができる。
母音一致のシンクロライムに比べ、同音かつ意味も一致する“同音シンクロライム”については発掘が極めて困難であり、大きな希少価値がある。
(同音で意味が同じ“同音同義語”、同音で意味が逆の“同音対義語”など)
また素材型シンクロライムは、すでに他の作者が発見済みの場合も多く、採用に注意が必要。
それについては、“五秒ライム”の一環として別項で述べる。
(文/SIX)
from 韻韻
ナチュラルチーズとプロセスチーズみたいなものか…
変更履歴
2016.12.27
- 新規作成
2017.8.8
- 全体的に改訂
2017.10.31
- シンクロライムの例を追加
- 配置順序について補足
2018.8.1
- 繋ぎに対応する用語としてライムフレーズを追加
2018.8.17
- シンクロライムを“素材型シンクロライム”と“継ぎ足し型シンクロライム”の二つに分類
2018.8.22
- ライムブログにて公開
2023.11.29
- 押韻島地下城への再録にあたり改稿